
海のそばの暮らしで感じる
“シンプル”な生活の贅沢さ
湘南アウトリガーカヌークラブ代表、
そして“美しい海を守る女神”という意味を持つ、ビキニブランドimanja社長の市川雄一さんと、
イマンジャの事業をメインに手がけている奥様の喜代子さん。
東京でバリバリ働いていたおふたりは湘南に引っ越して来られて、海のそばでの“シンプル”な生活の快適さに気づかされたのだとか。
鎌倉高校前の海を見渡せる高台のご自宅で、湘南という場所で生活することの魅力などについて語っていただきました。
Photo: Taisuke Yokoyama Interview: Meiko Shinomiya
SSJ:とても快適なご自宅ですね。市川さんはこちら(鎌倉高校前)のご自宅にはいつ引っ越されたのですか?
市川雄一さん(以下、雄一):実際建物ができたのが5年前の2005年です。
SSJ:その前はどちらに?
雄一:僕は東京です。そのころは、東京にまだ仕事があったので、行ったり来たりという生活をして、完全にここにいるようになったのは、2008年の11月からです。表参道のお店(ビキニブランド『イマンジャ』)まで通いきれなくて、今、この辺りにお店の場所を探しているところです。
市川喜代子さん(以下、喜代子):きちっと根付くような場所でやってゆきたいので、安易にはできないなと考えています。
雄一:今まではほとんど妻が取り仕切ってやっていました。
喜代子:事業部長なのです(笑)。

SSJ:湘南にという思いは、前から長い間温めてこられたのですか?
雄一:一番初めに表参道でオープンした時に、こっちにしようかどうか迷ったんです。それまでもずっとアパレルをやっていたので、速攻性を狙うならと東京で店をだす判断をしました。でもこういう水着って1年間の商売じゃないので、都会だと厳しい。湘南だと海のカルチャーがあるので、もっと密着した形でやっていきたいなと思っています。
SSJ:ご自宅をこの場所に決められたのはどうしてですか?
雄一:土地的には10年くらい前から海の見える場所がいいなと探していました。ずっと波乗りをやっていたので、鎌倉とか辻堂とかに休日に通いで来ていました。
SSJ:代表を務めていらっしゃる湘南アウトリガーカヌークラブの活動は、湘南だと江の島ですか?
雄一:2005年からスタートして今年で6年目に入るのですが、僕がこのアウトリガーを知ったのはちょうど2000年だと思います。葉山にカヌークラブがあって、そこでやっているのを聞いて、サーフィンの他にももう一つくらい何かやりたいなと始めたのがきっかけです。最初はそこのクラブでやっていたのですが、そのクラブでやっていた方が皆独立したいと言うので、いろいろアドバイスをさせてもらって、2005年に江の島で活動を開始しました。
SSJ:喜代子さんは、海は?
喜代子:海は大好き! 泳ぐのが好きで、海で泳いでいると海の底にはいろんなものが見えるじゃないですか。だから楽しい。海で泳ぐと時間も忘れて、どこまでも泳いで行っちゃうのではないかと思うくらい。サーフィンも教えてもらいながら少しずつ…。
雄一:彼女はスノーケリングとダイビングをやっていたのですが、カヌーを始めてからは、一緒に国内やハワイ島でのレースに出たりもしています。
SSJ:大会に出るためのトレーニングは大変ですか?
雄一:やっていますね。だいたい週3回くらいで、僕の方はシーズンに向けてだんだん増えてきますが、週に4、5回はカヌーの練習をします。
喜代子:私達のカヌークラブには楽しむためだけに参加している人達もいるんですよ。Aクラスという選手の人達やマスターズの人達もいるし、私のようなちょっと年配の人達もいます。時には、コーヒーやお菓子を持っていって、それを沖でいただいて、ピクニック気分で海の散歩を楽しんで江の島に帰って
来たりもします。主婦の方からお勤めの方まで幅広く参加されています。
雄一:今日みたいな、晴れた海が穏やかな日が一番楽しいです。
「もっと海というフィールドを存分に使って自然に
遊びができるような文化が日本にも根付くといいなと思います。」
SSJ:いいでしょうねえ! 気持ちよさそうですね。
喜代子:風があったりすると、川に逃げちゃう。カヌーで川に入って藤沢のほうまで行って…。
雄一:リラックスして漕ぐには風がない日がいいんでね。たぶんやっていただくとわかるのですが、サーフィンよりちょっと運動量は多いかもしれません。サーフィンは沖で波を待っている時間が結構あるじゃないですか。カヌーはだいたい基本的に漕ぎ始めたら、漕ぎっぱなしで、向こうに着いたら休むという感じですから。

SSJ:絶えず、ずっと体を動かしているわけですものね。
雄一:だから波がない時、サーフィンのトレーニングにもいいんじゃないかと思います。ハワイでもサーファーでやっている人は結構たくさんいます。トレーニングというと大袈裟になっちゃうけど…。楽しいからね。
喜代子:すごく楽しいですよ。
雄一:海での遊びってサーフィンとかボディボードとかヨットとかいろいろとありますが、アウトリガーはどちらかというとまだ新参者、これからの遊びだと思います。一緒に釣りもできるし、素潜りしても楽しいし。もっと海というフィールドを存分に使って自然に遊びができるような文化が日本にも根付くといいなと思います。海外の人は普通にパッとビーチに行って、おじいちゃんやおばあちゃんでも朝から水着で泳いでいるでしょ。湘南にもそれができるロケーションがあるのに、あまりそういう光景は見ないですよね。
SSJ:そうですね。海は若い人たちだけのものじゃないし、子供から年配の方まで、いろんな年代の人たちにとって、海での遊びがもっと身近で日常的なものとして浸透してくるといいですよね。今回は、江の島の特集をしているのですが、おふたりで江の島に遊びに行くこともありますか?
雄一:今ではカヌーで江の島を一周回ったりしていますが、カヌーを始めるまでは実はそんなに行っていませんでした。観光地ということはもちろん知っていたし、今の灯台ができて変わった灯台だなと思っていたくらいで、あまり江の島には縁がなかったのです。でもクラブを作ってからは、島の中の商店街の方や漁師さん、住民の方々と少しずつお友達になってお話を聞くようになりました。それで江の島は古い歴史のある場所だと再認識しました。葉山もそうだけど、江の島もパワー・スポットだとよく言われますよ。パワー、感じる?
喜代子:感じますよ。楽しいです、江の島!
SSJ:普段は江の島に行かれたら、どんなことをして過ごされていますか?
喜代子:行く時は、もうひたすら漕ぎに行ったり…
雄一:東京から友達や知人が来ると、江の島の中でご飯を食べます。
喜代子:景色を見ながら、サンセットを見ながら一杯やったり…。湘南の海を一望できますものね!
雄一:楽しみ方の極みです。海が見えて一杯できるところはそうありません。
喜代子:あんなシチュエーションで、熱燗に蛤とか、サザエとか、ね(笑)。友達はみんな「江の島からこんな素晴しい景色が見られるんだ」って感動してくれます。
雄一:鎌倉は日帰りで一気にいろんなところを観光しながら歩いても楽しいけれど、江の島はできるなら一泊で来て、夜まで充分に楽しんだ方がいいと思う。

「朝は、焼きたてのパンを買いに行けて、夕方、早く仕事を終わらせて海に浸かって…。
もっと“シンプル”な贅沢がほしい。」
SSJ:江の島の裏側の切り立った岩肌などは、湘南のイメージではないですよね。裏の顔って感じですよね。
雄一:僕も小学生か中学生の時、江の島の裏に来て磯で泳いだりしてました。
SSJ:今でも磯に降りられる所はありますか?
喜代子:ありますよ。カヌーで江の島の裏に行けば、スノーケルで潜ったりできます。夏は子供たちがすごく喜びます。
雄一:湘南アウトリガーカヌークラブには、子供のクラスもあって、小学生が15人くらいいます。夏はみんな裸でカヌーに乗って、自分たちで漕いで行きます。大人ももちろん引率はしますけれど、沖に行って飛び込んで、自由に船の周りを泳いでますよ。
SSJ:それは、喜びますよねえ。みんな地元の子たちですか?
喜代子:そうですね。ほとんど地元の子供です。
SSJ:小さい時からそうやって海に接していると、海に対する感じ方がぜんぜん違うでしょうねえ。
雄一:気をつけることだけは言いますが、あとは自由に遊ばせているので、自分たちで楽しむことを覚えちゃう。普通親御さんが連れていくと、危ないから海に入るのは止めなさい、ということになってしまいがちだけれどね。
SSJ:子供たちが自由に海と遊べる環境は大事ですね。学校では、危ないので子供同士で行くなと言われちゃいますものね。
雄一:カヌークラブも、子供達のために学校の放課後に開いてあげたいなと考えているんですけれど、やっぱりみなさん塾とかの勉強が忙しいようです。それに、今の子供たちは、カヌーよりやっぱり野球かサッカーでしょ。なかなか海のことをやる子は少ないんです。学校のクラブ活動自体も減っているって聞きますし…。本当はもうちょっといい環境を作ってあげれば、子供達も放課後を充実して過ごせるのにと思います。
SSJ:市川さんご夫妻は、こちらに越されてから暮らしはずいぶん変わりましたか?
喜代子:すごく変わりましたね。デパートがないのは寂しいなと思ったり(笑)、でも都内に出ていると早く湘南に帰りたいなと思ったり、いろいろ裏腹なことがあります。
雄一:越して来てまだ時間がそんなに経っていないから、我々はまだ根付いているとは言えないですが、最近は東京に行っても、用事だけ済ましちゃえばさっさと家に帰ります。それくらいやっぱり湘南での暮らしが快適です。でも、欲を言えば、パン屋さんが近くにあったらいいなとか、飲み屋さんがあれば生活も楽しくなるのでは…、なんて思います。
喜代子:そう、もっとシンプルな生活という意味での贅沢があれば…。朝起きて、焼きたてのパン買いに行って、仕事して、夕方早目に仕事が終わって、ちょっと海に浸かって、というように、日々の暮らしの流れをシンプルに作っていきたいという感じです。都内にいた時は、仕事、仕事、仕事でした。
雄一:夜中の12時くらいまで仕事していましたからね。

SSJ:時間の感覚がおかしくなっちゃいますよね。
雄一:で、一応自分の楽しみとして土・日はサーフィン行くことにしていました。と言っても、今の生活とは全然違う。今は生活のサイクルの中に海がある。ここでの生活を少しでもいい形にしていきたいなというところです。
喜代子:いろんなことが、シンプルになってきました。
雄一:だんだんね。
喜代子:物欲が変わってきたというか、洋服とかバッグとか靴ではなくて、海で使うアイテムとかに変化してきたり。
雄一:やっぱり東京にいると“物”に目が留まっちゃうから、制御できなくなる(笑)。
SSJ:確かにそうですよね。私も湘南に住むようになってから、買い物がずいぶん減りました。
雄一:自分の今の湘南での生活に必要なものがメインになってくるでしょ? たぶん都会に住んでいたら、そんなに水着をたくさん買わないだろうし…。水着が必要だからさ。洋服なんかも本当はこっちで買えればいいわけだし。
「毎日、海のそばでいろいろ感じながら出会いを大切に、将来を作っていきたい。
都会から離れたからこそ、逆に新しい発想ができることもある。」
SSJ:お仕事、お店のことも含めたこれから先のことですが、どういう生活を目指してゆきたいと感じていらっしゃいますか?
雄一:やっぱり一般的によくオーシャン・ライフといいますが、そばにある海を中心にして、できることをいろいろ模索しなきゃいけない。今はっきりこれをという明確なイメージがあるわけではないですが、毎日いろいろ感じながら作っていきたいと思います。ものごとを成すには時間が必要です。都会にいると、お金さえあれば何でもできちゃうように錯覚するのですが、こういう場所では時間もかかるし、人との関係も大切だし…。いろんな出会いを大切にしながらやっていきたいと思います。こっちに住んですごく新鮮に思うことは、たまに東京の前やっていたアパレルの仕事関係の方と会っていろいろお話をする時に感じる再発見です。今までは向こう側にどっぷり浸かって仕事していたわけですが、今はどっぷり浸かってはいない。だから逆に、どっぷり浸かっている人よりも発想が新しかったりする場合があるという点です。これが、面白いです。都会から離れたからこそ、逆に新しい発想ができることもあるのかなあと。
SSJ:そうですねえ。違う視点で見ることができるようになりますものね。
雄一:そうそう。それを捉えてくれる人は多くはないと思いますが、自分なりにちょっといいこと考えてるな、と勝手に思うときもあります(笑)。
喜代子:やっぱり私も、人との関わりを大事にして生活していきたいです。同じ感覚を共有できる人達が海のそばにはたくさんいる。そういう人達と、何か小さくてもいいから作りたいと思います。みんな海を通しての関わりを大事にしているじゃないですか。
雄一:僕達くらいの年齢になると、仕事を通して何かやってきた人が多いわけです。そして、それぞれ皆さん得意分野での役割があり、そういう人達が少しずつ集まると何かできる。また、これから若い人達が何かやることについてもいい形でアドバイスもできる。
喜代子:私の言いたいことを通訳してくれました(笑)?
雄一:若い時は、「自分が、自分が」と強気でやってきましたが、今はだんだん、「だったら何か一緒にやろうよ、協力するよ、アドバイスできるよ」と自然に、都会にいた頃よりニュートラルな関係が築けるようになりました。
喜代子:謙虚になりましたねえ!
雄一:謙虚さを持ってたい。そう心がけていたいよ。あのまま都会に住んでいたら、ただの高慢ちきなおじいちゃんになってヤバかったかもしれない。そういう面でもこっちに来たことはよかったという結論です。ただ残念というより自然の成り行きですが、今は日本の経済がよくないし、これからも前みたいによくなることはありえない。超少子化、超高齢化の時代に入っていくから、今まで通りというのはもうないと思うんです。だから、そこで早く価値観を変えて、もう今まで通りじゃないんだよってスッパリやらないといけない。いま会社経営なさっている方も、元に戻したい人が多いわけですよ。よかった時に戻せることは可能かもしれないけど、全般的には難しいと思います。もう切り口を変えちゃわないと、事業は大変。つまり、逆に違う生き方ができるチャンスだと思うんです。昔にしがみついても、よくならないし、あっという間に歳もとっちゃう(笑)。
喜代子:残り時間を考えたらやっぱりねえ…(笑)。
SSJ:湘南に移り住んで、市川さんご自身の考え方にも変化があったということですよね。
雄一:僕の場合は徐々にですけど、変わりつつあります。毎日少しずつ。今まで固まっていたものが少しずつほぐれてきています。
喜代子:ほんと、なんかそういう感じです。カーペットの丸まっていたところがどんどん伸びていったような。
雄一:それはやはり湘南に住んでいるからだと思います。つくづくこっちに住もうと決めてよかった! もしかしたら、もうちょっと歳をとって70歳くらいになるとまた東京に住みたくなるかもわかりませんが(笑)、今はよかったと思います。
喜代子:こっちに来てから細かいことがあまり気にならなくなりました。海から濡れたまま帰ることや、髪の毛に潮がついたまま家の中にいても平気。外で着替えることも平気。
SSJ:わかります(笑)。家の中に砂が入ろうが平気!
喜代子:ゴムぞうりで都会に行っても平気! あと、荷物の整理が上手くなった。外出する時、サッと出られるようになった。眉毛だけ書けば、素っぴんで人に会ってもいいかとか…(笑)。そういうふうに変わって、生活がシンプルになりました。
雄一:だけど、ここで一つだけ思うことは、たまに緊張感も必要じゃないですか、ということです。たまには、お洒落してどこか行きましょうということがないとね!
喜代子:そういう時には、ドレスなんて大袈裟なものじゃないけど、ちょっと綺麗な洋服を着て、というメリハリがつきますね。都会にいるとそのメリハリの幅があまりないのですが、ここにいると幅が広いです。
SSJ:そう、変化がありますよね。
雄一:湘南で暮らしていると、東京から遊びに来るようになった友人も結構多い。やっぱり、憧れなのかもしれません。そういう気持ちをもって来てくださるので、嬉しいかな。みんなに来てもらいたいです。
喜代子:来てくれた人たちは、みんな東京にはない何かを感じて帰られます。気持ちよかったぁと言ってくれると、嬉しいです。
雄一:東京では、家に遊びに来るという感覚がないからね。じゃあ、居酒屋で会おうかってことになってしまう。
喜代子:ここに来てからは、みんなで家で料理を作って一杯やる。そういうのって楽しいじゃないですか。都会にいたときと、行動パターンがずいぶん変化しました。

















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